H16.4月更新  所長の部屋  

『こころ』『かたち』
アサヒビール椛纒\取締役会長 福地茂雄

日本は20世紀後半の50年、国家も企業も家庭も、ただひたすらにシステムやフレーム、インフラ、ハコものといった『かたち』を整える、『かたち』を立派にすることに専念してきた。そして世界に冠たる、優れた『かたち』をもった国家となった。
しかし、国家としての『かたち』が立派になった反面、『国を愛するこころ』『国家としてのビジョン』『国家としてのアイデンティティ』を置き忘れてきた。学校の『かたち』も整ったが、教育は荒廃し、研究は遅滞している。企業の『かたち』も大きくなったが、企業倫理、コンプライアンスなどを失っている。家庭も『家屋』は立派になったが、『家族』という意味が薄れ、『家族の絆』が切れてしまった。
        国家や企業が大きく成長しようとするとき、まず『かたち』を整えることが大切である。しかし、『かたち』に込める『こころ』を忘れてはいけない。
どんなに素晴らしいコーポレートガバナンスの仕組みを作っても魂を入れるのは経営者であり、またどんなに素晴らしい品質保証の仕組みを作っても、全社員に品質保証にかける想いがない限り、その仕組みは機能しない
 私は生産部門が毎年提出してくる設備投資予算の中で、こと品質保証に係る投資については、一度たりとも削ったことはない。したがって設備の面では考えられるすべての品質保証の『かたち』ができたと確信している。
 しかし、私が生産部門に常々忠告することは、品質保証は、さいごは一人ひとりの人間の仕事であり、設備が万全となった分だけ『安心感』や『気の緩み』が生じていないか、また、全工場でISO9000シリーズを取得したことが、即お客様に対する品質保証に繋がるものではないと戒めている。

    
       
私の毎日の通勤路に当たる台東区稲荷町交差点に、かたちを求め、かたちをすすめる』といった広告が掲出されている。これまでひたすら『かたち』作りに注力してきた私たちはこれらの『かたち』『心』にすすめなければならない。
『かたち』を作ることはやさしい。しかし、『かたち』『こころ』を入れることは難しい。今改めて経営品質が問われ、『こころ』の大切さが問われているのではないだろうか。    

                国民生活金融公庫 調査月報より

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