日本経済の原点は技術力 東海大学 名誉教授 唐津 一 日本の面積は世界のわずか0.3%である。これに対して経済の規模は、世界の15%を占めていて、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国である。この凄い経済規模をもたらしたのは、モノづくり、製造業の活躍だ。鉄の原料の鉄鉱石は、1トン当たり2千円である。これを加工して鉄板にすると、トン5万円になる。これで乗用車を作ると、トン100万円になる。このようにして工業製品を作ることから得られる付加価値が、現在の巨大な経済の原点である。付加価値を得るには、技術がいる。だから現在の巨大な経済の原点は、技術力だと言ってよい。 日本が現在新技術開発に使っている投資は、だいたい年間16兆円、対GDP比で3.2%である。これはEUの平均2.5%からみるとかなり大きい。しかし、この数字が日本の明日を切り開いているのだから、減らすわけにはいかない。 また、特許の取得件数をみても日本企業の努力が分かる。世界中の各企業の特許取得データをみると、トップ10社の中に日本企業が7社入っていて、健闘ぶりがうかがえる。これらの数字をみる限り、日本企業は工業化社会における問題点をよく理解している。そしてそれぞれに努力を続けて成果をあげていることが分かる。さらに、国際的な展開も進んでいる。近年海外生産が急速に拡大している。これを空洞化という人もあるが、次の例を知って欲しい。 富山県の黒部にはファスナーで世界一の企業、吉田工業がある。この会社は世界43カ国に工場を持っている。その理由は、ファスナーは長さや仕上げの注文が客によって皆違うので、お客のそばで作らなくては間に合わないからだという。つまり、そばやの出前と同じなのだ。 だから空洞化という発想とは全く違う。これはこれからの日本の製造業の海外戦略を考えるのにはよいヒントとなる。最近日本の乗用車生産が海外で増えていて、やがて国内生産を上回るだろうといわれているが、これもそばやの出前と受け止めれば自然なことである。 この話題の重要な点は、日本の技術力である。このように言うと、これからも日本の経済を引っ張る技術が次々と出てくるのかと、心配になる読者もいるだろう。しかし、これまでの足取りを見る限り。このような新技術開発のテンポは、加速しても足踏みすることはないといえる。楽しいではないか。 国民生活金融公庫調査月報より
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