16 . 8月  所長の部屋

 残暑厳しい折柄如何がお過ごしでしょうか。長崎の景気も少し明るさが見えてきたとか申しておりますが中小零細業者においては景気下降気味が押し止められたというのが現実ではないでしょうか。まだまだ景気浮揚までには遠い感じがしております。しかしながら、だからと言ってこのままじっと耐えているだけでは打開策にはなりません。これからが正念場・・・社長自らの決断と行動に力を入れていきましょう。

(1億3千万テレビ市場の攻防)
クビきりのない経営、世界を

                   町 田 勝 彦 (シャープ社長)

――中国特需に浮き足立つな。最先端は日本が走る――

今年三月期の決算で、シャープは過去最高売り上げの2兆2572億円を計上し、純利益も過去最高の607億円となりました。

主力商品である液晶テレビは、現在、世界の売り上げの50%を超えて、トップシェアを維持しています。家電の王様はやはりテレビです。テレビで一流になると、企業イメージがぐんと上がる。『テレビを制する者は家電を制す』といわれる所以です。今年一月に立ち上げた亀山工場は32インチ換算で月12万台の液晶テレビを生み出す世界最大規模の工場です。現在、世界で最も大きい『第六世代』のガラス基板を使い、液晶パネルから液晶テレビまで一貫生産する。こうした方式の工場は世界に例がありません。

では、どうしてコストの高い日本国内に最先端の工場を作ることを選択したのか。答えは二つあります。ひとつは、『このままでは日本の生産技術は完全に空洞化してしまう』という強い危機感。そして、もうひとつは『最先端のモノ作りは、日本国内でしかできない』という確信でした。

コスト削減を追及して海外生産に頼るのは、一時、痛みを忘れるモルヒネ経営にほかならない。そう考えた私は、2001年の正月に『日本で製造業を極める』と宣言し、三年半で国内の四ヶ所の新工場建設に取り組み、二工場をリニューアルしました。

 日本の技術的優位は、ひとつには優れた開発技術にあります。開発では二年進んでいる。もうひとつの圧倒的優位は、商品開発を支える広大な裾野にあります。工場で使われる製造装置の技術の高さでは、日本は他の追従を許しません。液晶関連の製造装置は、なんと九割以上が日本製。つまり、何を作るにも、日本の製造機械なしには始まらないのが現状です。

 いま、日本の製造業は『中国特需』に沸いています。これは日本のメーカーからみると、まさに諸刃の剣です。中国で安く作った商品を巨大なマーケットである中国で売って利益を上げる『中国特需』がいつまでも続くとは私は考えておりません。もちろん著しいスピードで工業発展を続ける中国は、われわれにとっても、重要な生産拠点であり、液晶パネルなどのデバイスの大きな市場でもあります。しかし、コストが安いから海外に進出する、と述べてきましたが、もはや中国に関してはそうした認識を改める時期にさしかかっています。中国人の学習能力はきわめて高いものがあります。おそらく現在、日本で普通にやっている生産や、ある程度の開発技術は、またたく間に吸収するでしょう。つまり、現在のメイド・イン・ジャパンの主力商品のいくつかは、遠くない将来、中国のメーカーに追いつかれ、とってかわられることを覚悟しなくてはなりません。

 では、日本はどうすればいいか。答えはひとつです。中国が日本の技術を吸収する以上のスピードで、次のデバイス、そしてそれを応用した次の商品を開発していくこと。それ以外に生きる道はないでしょう。さらには『和の精神』だと思います。現在の技術開発のトレンドは『組み合わせ』です。私は『融合』と呼んでいますが、様々なノウハウや技術を持った人たちが集まり、その組み合わせで化学反応を起こす。一人の天才の発想には限りがある。衆知を寄せ合い、一人では思いもつかなかったアイデアを生むのが、現在のメーカーの開発システムです。こうしたやり方は、日本人は非常に適している。

 社長としていつも考えるのは、十年後、あるいは五十年後もシャープが元気に行き続けるにはどうしたらいいのか、ということです。そこで常に立ち返るのは、『いたずらに規模のみを追わず、誠意と独自の技術をもって、広く世界の文化と福祉の向上に貢献する』という当社の経営理念です。この基本姿勢がブレなければ、中国が台頭しようと、インドにさらに安い労働市場が生まれようと、いちいち右往左往せずに、冷静に対応できる。

 環境がいかに変化しようと、こちらの構えを崩す必要はないのです。アメリカ経営だ、今度は中国特需だ、と安易に状況に追随して走り回るほうがかえって不安定で、危険な経営なのではないでしょうか。

= 文芸春秋七月号より =

  


元気のある企業はどこか違う。社長自らの意思決定の差を感じませんか。

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さて、当、田中会計事務所は皆様にご招待状をお送りましたとおり、今年7月をもって創立25周年を迎えました。これも偏に関与先の皆様の温かいご支援とご厚情の賜と心より御礼申し上げます。つきましては911()午後5より長崎ウエルシティ長崎厚生年金会館において粗宴を催したく、ご来臨賜りますようお願いいたします。
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