平成19年10月更新

    所長の部屋

“柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺”・・
 果実が熟す季節になりました。いかがお過ごしでしょう。

 今年の「私の部屋四月号」に不穏な動きの今年になりそうと申し上げましたが、どうやら政局のほうでは的中しつつあります。自民党と民主党の二大政党の時期到来でしょうか。しっかり見守る必要がありますね。

 さて、今月は事務所から見た、経営者(もちろん私も含みます)に対して、問題提起をしてみてはどうかと話しましたところ、田中仁美課長から“経営者に問う”というテーマでレポートを出してもらうことになりました。
 なかなかに的を射た鋭いタッチで倒産の原因はただ単に地方格差や経済不況ではないと・・経営者の資質に問題あり・・・との意見は実にわれわれ経営者にとって参考になると思います。
 是非ご拝読願います。



経営者に問う

1. はじめに

人は進化の過程で何を得たのだろうか。考える力、想像力ではないだろうか。
 ところが、年金記録漏れ問題、温泉施設の焼失事故、牛肉偽装、介護費不正請求など「想定外」の事件・事故が矢継ぎ早に続いている。自己の利益追求としか思えない。そのことがどのような結果をもたらすのか想像することが出来なかったのだろうか。

苫小牧市の食肉加工販売会社の工場長が記者会見で「(指示を出した)社長は雲の上の人でしたから」と口にした言葉は胸を突かれた。会社の論理と社会の倫理の板ばさみは人ごとではない。「このままでは破綻する」と悩む現場の声に組織は耳を傾けず、問題点を指摘しにくい空気を作ってしまった結果が企業破綻をまねいてしまったのだろう。

 このようにワンマン型の経営者が率いる企業・グループばかりが不祥事や重大事故につながるような気がする。歴史をひもとけばどんな国家であれ集団であれ、その盛衰はリーダーで決まる。企業にとっても同じで、経営者の行動の成否によって企業の繁栄や従業員の運命も決まる。海外でも不正会計処理で米エネルギー大手のエンロンが破綻、また、通信大手のワールドコムも破産申請するなど一連の事件で株式市場は大きく低迷した。企業統治の危機、経済社会への不信感を招いた原因は経営者の倫理観の欠如にある。今、企業リーダーのあり方が厳しく問われているのではないだろうか。

今回のレポートでは、まず、最近の倒産状況を把握し、そして倒産にいたる諸原因の根本原因は何かを究明しながらその改善策を考えていくこととする。

2. 倒産の現状

倒産件数は20077月時点において915件(前月985件、前年同月746件)で、前月比は7.1%(70件)の減少となったが、前年同月比は22.7%(169件)の増加となり、10ヶ月連続の前年同月比増加、前月比では2ヶ月連続の減少となったものの、全体の推移としては確実にベースラインが上昇してきており、増加基調が持続している。業種別では建設業、サービス業、規模別では負債1億円未満や個人経営など小規模倒産の増加が顕著である。

 倒産主因のうち「不況型倒産」が増加し、前年同月比
24.4%(138件)と大幅増加であった。販売不振が高水準で続き、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業績不振などが倒産主因である。なかでも個人経営を中心とする中小・零細業者の倒産が増加傾向にある。
 景気回復局面にありながら「不況型倒産」の割合(
76.9%)が高水準で推移しているのは、小規模企業の多くが「不況型倒産」の主要因である販売不振にあえいでおり、景気回復感を享受できていないからである。また、個人企業でみても近時の傾向を示す倒産が散発した。公共工事削減の影響や牛肉ミンチ偽装事件に代表される「コンプライアンス違反型倒産」、第三セクター3社の倒産などである。

国内景気の減速感が次第に高まっている状況下、「脱談合」の加速や個人消費の回復遅れ、原油高進行の影響によって地方圏の中小・零細業者を中心に力尽きる企業が後を絶たず、倒産件数はしばらく増加基調を持続する公算が大きい。
3. 経営者の役割

はじめに述べたようにリーダーの資質によって企業の盛衰が決まる、と記した。経営環境がグローバル化し短期間に大きく変化している現在、経営者に求められているのは、経営者の高い志と強固な信念に基づいた経営理念を策定することである。これまでのように時代の流れにまかせ、ただ漫然と経営をしていては、企業を維持発展させることはできなくなった。

 経営者はしっかりとした経営理念・経営哲学という羅針盤をもって、経営に取り組むことが急務となってきた。そして経営者に必要なことは「人間としての正しい生き方」を常に学び、理性の中に押しとどめるよう努力することである。

 人間としての器量にあふれた人物をリーダーに選んで来なかったところにこそ、現在の政界、経済界、官界の不祥事の原因があるのではないだろうか。自分の利益だけを考えてビジネスをしようとすると、いろんな矛盾をはらんだり、社会との摩擦を引き起こす。経営者としての資質「深沈厚重」を兼ね備えた人物こそ企業が存続できる第一条件の要素であると確信する
 
 その前提条件で経営者が考えなければならない課題は、ビジョンを持ち、深刻な危機の原因を察知し、また新たな事業機会を作り出しそうな組織内外の力を見抜く能力を養い、これらを的確に理解し決断することである。
 そしてリーダーシップが評価される主なものは次の通りである



* ビジョンがあるか

* 自分と周囲に強い自信を持っているか

* 企業のビジョンや価値、標準を、自ら模範となって示して
  いるか

* 自らが会社に尽くし、決断緑を持ち、根気があり、果敢な 
  態度を示しているか  

  
    

IMDインターナショナル.ロンドン・ビジネススクール.ペンシルベニア大学  ウオートン・スクールMBA全集6 リーダーシップと倫理』

ダイヤモンド社(
1999年).フォーチュン500社の、アメリカ大手製造業の中の48社を対象にした研究から導き出された結論であり、各CEOの直属の部下2名に上司であるCEOを上記の点で評価した

4. 諸要因における改善策

@ 生産関連 

過剰生産、過剰在庫、過剰設備、設備の旧式化、品質管理の欠如が考えられる。

 まずは、部下の能力を適切に見極め、適材適所でその能力を最大限に活用できるよう責任者、管理者を育て、常にコスト意識を持たせるようにすれば、過剰生産等の無駄は排除できる。

A 組織関連 

組織の肥大、組織の硬直化、間接(事務)部門の肥大、管理階層の過剰、情報経路の不備などがある。

 組織を効果的に執行することは良いマネジメントの職責である。
   職務の力(仕事に就くことにより生じる力)
   人間の力(仕事で活用されその中で育つ力)
   変容する組織の力(仕事の中で生まれる力)
を活用し、意思決定システムを、権限と責任を委譲したやり方に改める。部下は権限を委譲されると、権限の委譲や情報の共有、部下の指導育成により前向きになり、また自らの事業運営の中でより多くの自由や自主性を与える傾向にあることが研究によって確認されている。

B 経営関連 

意思決定の遅れ、経営者の強権(ワンマン)化、経営の内紛、中間管理の肥大などがある。同族経営に見られがちなファミリー主導の経営である。

 同族経営の最大の弱点は経営に狂いが生じたとき、それに歯止めをかけるブレーキが効きにくい点である。傲慢で自己満足に陥り、問題を先送りにしている。多くの日本企業に共通する「企業統治の不在」が考えられる。ファミリーの呪縛による経営を改革し、そこにある暗黙の企業文化の創造的破壊を行い、経営の本質である企業の存続と繁栄に必要な措置をとるべきである。

C 人的関連 

従業員教育の欠如、従業員の士気低下、労使関係の悪化、人件費の固定化などがある。

 企業経営は人の営みであり、異質で多用な人間が集まって活力が生まれる。個を活かし、全体の力となったとき、企業は信じられないほどの力を発揮する。従って、全ての人材を活用できるよう想像力を活かし、部下たちが喜んで苦労するように持っていく経営者の才能が必要である。そして、従業員の仕事と生活の統合に長期的な悪影響が出ないように組織変革を管理する。

D 財務関連 

資金回転の鈍化、取引先の倒産、不良債権、過剰債務、高利子負債、他社の債務保証、投機的外部運用などがある。

 企業の効率化と量から付加価値への転換を進め高コスト体質の是正を行う。そのためには経営者は常に世の中の動きに目を光らせ、競争低下をくい止め、長期の成長を期さなければならない。

E 市場関連 

オリジナル商品の欠如、競合輸入品の代頭、他業種からの参入、プロダクト・ライフサイクルの短縮、他社の追い上げ、新製品の不評、クレーム処理の不備などがある。

 ビジネスプロセスにおいて、品質やサービス、スピードを向上させるために組織中のプロセスとペーパーワークを合理化する、情報システムは改善され、職務上の肩書きを拡大し従業員はエンパワーメントを受け、説明責任を重くする。マネジメントが日常的に顧客と接触すること、企業内部に顧客の代弁者を組織すること、そして意思決定に顧客の尺度を導入すること。これらは移り変わる市場の要求に、企業が確実に対応する上で役立つものである。

F 研究関連 

製品開発の遅れ、基礎研究の欠如などがある。

 経営者が常に危機意識を持っていれば、それが新規事業や新製品開発に駆り立てる原動力になる。良ければ良いなりに、必死でやらなければその良さを維持できないし、たえず新製品を開発しなければ、現状維持さえできない。

G 事業関連 

経営計画のずさん、新規事業の失敗、子会社の損失、海外進出の失敗などがある。

 特に海外進出や新規事業の立ち上げなど綿密な経営計画を立て慎重でなければならない。仮に失敗と見込まれた場合はためらわずに撤退する決断と勇気が必要である。

H 社会関連 

欠陥商品、経営不祥事(違法行為)、内部告発、消費者からの訴訟、広報の欠如、メディア対応の失敗などがある。

 消費者は自分たちの好みにかなった社会観を持つ企業を支持するようになった。倫理的に行動し社会問題に貢献していれば長期的にはビジネスの成功につながるのではないだろうか。現に経営不祥事を犯した企業の経営破綻は既に述べたとおりである。社会的主張に合うと評価されれば、従業員のモラルを高め、採用の際にも良い人材が集まるに違いない。また、従業員も自分たちの会社が世間から評価されていると感じると、会社への忠誠心が強くなり、幸福にもなる。そのような企業には内部告発などありうるはずがない。現在、成長している企業の共通項は、社会貢献に重きを置いている企業となっている。

5. おわりに

倒産件数が増加傾向にあるなか、その倒産の直接のきっかけは資金不足であるが、それ以前に根本原因が企業の中に潜んでいるようだ。

 まずは、企業リーダーである経営者や幹部が「だましてはいけない」「うそは言わない」「正直であれ」といった基本的な教えを徹底して守り、また社員に守らせるといった企業統治のシステムを構築することが大切である。

 実はここに経営の原点が隠されているのではないだろうか。そして経営者は従業員の生活と雇用に全責任を持ち、顧客が満足するように使命感をもって応えなければならない。

このような経営者であれば、企業の存亡に関わる危機に瀕したとき、人間としての正しいものの考え方・行動力でリーダーシップを発揮し、立ち直らせることができるはずである。

参考文献
  ・IMD
インターナショナル.ロンドン・ビジネススクール.     ペンシルベニア大学ウオートン・スクール
  『
MBA全集6 リーダーシップと倫理』
         ダイヤモンド社(
1999年)   ・帝国データバンク
  『統計レポート』
 
                .http//www.tdb.co.jp
 
 ・佐々木 直
.
  『「古典」経営論―
21世紀の帝王学』
         中央経済社
.2004年) 
  ・ 小松 章 
  『基礎コース 経営学 第
2版』
           新世社
.2006年)

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