20年 4月更新 所長の部屋 |
− 島木赤彦 − |
さて、今回は私が大好きな詩人、高橋佳子さんの詩を紹介しましょう。 |
遠鳴り(とおなり) |
その日 新しい現実が始まり新しい歴史が刻まれるとき。 内なる闇が浄化され内なる光があふれるとき。 その日はいつ訪れるかわからない。 しかし必ずやって来る。 そして人はずっと以前からその訪れを感じている。 今を生きるために耳を澄ませよう。 求めるべきこと果たすべきこと 一体どこに向かい何にどう応えるべきなのか。 きっとそれを導く深淵の声が届いているはずだ。 必ずそれを導く根源の風が吹いているはずだ。 だから意識を沈黙させて心の底に耳を傾けてみよう。 |
有無を言わさず押し流し次に応えよ 先に進めと要請する。 しかし本当の答えを求めるなら源に遡らなければならない。 流れ出す前のあふれに動き出す前の構造に まなざしを注がなければならない。
未来の全貌はそこから見えてくる。 遠くに響く潮の音は変わることなく 一つのリズムを刻んでいる。 運不運が入れ替わり 逆境順境が交代する この世界を生きるための秘密を教えている。
あきらめないことが智慧なのだ。 人生をそうやって海のように生きてゆけ。 破れても砕かれてもすべてを受け入れて生きてゆけ。 |
君たちは未来をつくる種子だ。 今はまだ固く覆われていてもやがてその殻を破り 芽を出してゆくだろう。 そして試練が訪れても地深く根を張って たくましく天に伸びてゆくだろう。
君たちは希望を運ぶ翼だ。 今はまだ頼りなくてもやがてその翼を広げ 大空に羽ばたいてゆくだろう。 そして困苦が満ちても自らを練磨して 気高くその痛みに応えてゆくだろう。 目の前に道は見えなくても 遥か彼方に頂が見える。 だから私はそれをめざして歩み続ける。 つまずき悩むことは避けられなくても 心の奥に願いがある。 だから私はそれを信じて歩み続ける。
寒さが濁りを取り除き険しさが迷いを削ってゆく ひとすじの道である。 |
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