所長の部屋 平成20年 7月


 朱夏の季節になりました。皆さんお変わりありませんか。暑いからといって、冷たいものを摂取し身体を壊さないように気をつけてくださいよ。まだまだこの暑さは続きますからね。

 さて、私の愛読書の一つでもある文藝春秋の七月号に『皇后美智子さまの告白』という末盛千枝子さん(すえもりブックス代表・JBBY副会長)の特別寄稿が掲載されています。これは皆さんに是非読んでほしいと思いますがこの一端をご紹介するとともに皇后さまの御歌をも併せて紹介してみたいと思います。


御 歌


思いゑがく 小金井の里 麦の穂揺れ 少年の日の 君立ち給ふ
    (麦の穂について、陛下の少年時代の疎開の光景を思い浮かべて・・)
        
萌えいづる 若草の野辺 今日行かば 
             青きベロニカの 花も見るべし

    (皇后さまの好きな花のひとつです)

み車の 運び静けし 天足(あまた)らす みいのちにして 還り給ひぬ

子に告げぬ 哀しみもあらむ 柞葉(ははそは)の 母清(すが)やかに老い

三輪の里 狭井(さい)のわたりに 今日もかも 花鎮めすと 祭りてあらむ

ふり仰ぐ かの大空のあさみどり かかる心と 思し召しけむ

言(こと)の葉と なりて我より いでざりし
             あまたの思い 今いとほしむ

み空より 今ぞ見給へ 欲(ほり)りましし 日本列島に 桜咲き継ぐ

子らすでに 育ちてあれど 五月なる 空に矢車の 音なつかしむ

窓にさす 夕映え赤く 外の面なる 野に冬枯れの 強き風ふく 

 皇后陛下は超一流の歌人ですね。御歌の品格と滲み出るお優しさ、格調の高い大きい広がりの知性に圧倒される思いがいたします。大自然やその中で生きるそれぞれにお与えになる大きな愛と魂の響きを感じます。母なる大地のような美智子皇后さまを私は誰よりも一番に尊敬し、これからも皇后さまの御歌を鑑賞させていただこうと思っています。
  
    
 平成
59月、天皇ご一家のパッシング記事がある雑誌に掲載され、お声を失われたことがありました。その時、『でんでんむしの悲しみ』の話をされています。・・・

 「でんでん虫は、ある日突然、自分の背中の殻に、悲しみが一杯つまっていることに気付き、友達を訪ね、もう生きていけないのではないか、と自分の背負っている不幸を話します。
 友達のでんでん虫は、それはあなただけではない、私の背中の殻にも悲しみは一杯つまっている、と答えます。
 小さなでんでん虫は、別の友達、又別の友達と訪ねていき、同じことを話すのですが、どの友達からも返って来る答えは同じでした。
 
 そして、でんでん虫はやっと、悲しみは誰でも持っているのだ、ということに気付きます。自分だけではないのだ。私は、私の悲しみをこらえていかなければならない。この話は、このでんでん虫が、もう嘆くのをやめたところで終わっています。」・・・・。

    
 
皇后さまは、声を失うというほどのストレスでさえ、そのような、誰もがそれぞれ背負っていくべき悲しみとして受け入れ、乗り越えようとしておられるのです。感動です。圧倒されます。暖かいものに触れたような喜びを感じます。
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