まえがき・・ゲーテは私が知りうるかぎり、人類最高レベルの資質をもった人間である。
稀代のベストセラー作家でありながら、詩人でもあり、いっぽうで古代からの芸術にも造詣が深かった。脚本を書くだけではなく、演出もし、自ら劇場の設計もした。
それに加えて、科学者として最先端の研究をし、政治家としても忙殺され、国王の相談相手でもあった。一つの分野でも超一流なのに、何役も同時並行して極めた。
生涯、情熱的な恋愛を重ねながら、82歳で没するまで現役として活動し続けた。・・・(中略)・・・
T集中する、U吸収する、V出合う、W持続させる、X燃焼する、あとがき・・とありますがその中のV出合うについて紹介をします。
愛するものからだけ学ぶ
人はただ自分の愛する人からだけ学ぶものだ。
ゲーテに、「人は愛する対象からしか学べないのだ」と断言されると、気が楽になるところがある。日常生活においては、相性の悪い人ともつきあわなければならない。
だが、本当に大事なものを学ぶのであれば、情熱が湧くような相手でなければむずかしいとゲーテは言う。自分が惚れ込める人をつくることだ。
学ぶことと愛することは密接につながっていると孔子も言っている。「之を知る者は之を好む者に如かず」と孔子は説いているが、「好むものに如かず」とは、それを愛してしまう人には勝てないという意味である。
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豊かなものとの距離
シェークスピアは、あまりにも豊かで、あまりにも強烈だ。創造をしたいと思う人は、彼の作品を年に一つだけ読むにとどめた方がいい。
すごい才能の持ち主がいたとするとき、憧れているのだから近づきたい。しかし、実際にぴったりそばにいると、その人と自分との差があまりに大きくて、どうやってもかなわないとあきらめをかんじることがある。ゲーテは「適当にしておけよ」というのである。
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同時代、同業の人から学ぶ必要はない
生れが同時代、仕事が同業、といった身近なひとから学ぶ必要はない。
何世紀も不変の価値、不変の名声を保ってきた作品を持つ過去の偉大な人物にこそ学ぶことだ。こんなことをいわなくても、現にすぐれた天分に恵まれた人なら、心の中でその必要を感じるだろうし、逆に偉大な先人と交わりたいという欲求こそ、高度な素質のある証拠なのだ。モリエールに学ぶのもいい。
けれども、何よりもまず、古代ギリシャ人に、一にも二にもギリシャ人に学ぶべきだよ。
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性に合わない人ともつきあう
性に合わない人たちとつきあってこそ、うまくやって行くために自制しなければならないし、それを通して、われわれの心の中にあるいろいろちがった側面が刺激されて、発展し完成するのであって、やがて、誰とぶつかってもびくともしないようになるわけだ。
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読書は新しい知人を得るに等しい
書物は新しい知人のようなものである。
初めのうちは、大体において一致し、わたしたちの存在の何らかの主要な面で親しく触れ合うのを感ずれば、それで大いに満足している。やがてもっとよく知り合うと、ようやく差異がはっきりしてくる。
そうなると、とるべき理性的態度の要点は、たとえば若いときのようにすぐにしりごみしたりせず、ほかならぬ一致点をしっかりとおさえて、だからといってすっかり一致しようなどとも思わずに、差異を完全に自覚することである。
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癖を尊重せよ
ある種の欠点は、その人間の存在にとって不可欠である。古くからの友人がある種の癖をやめたと聞けば、不愉快になるだろう。
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壁に突き当たったとき、ふと開いた本の一行で、頭の中の霧が一瞬にして消える体験をしたことが今までに何度かあった。その最大で最高の体験を本書で追体験してみた。
多忙な生活を送り、毎日、めまぐるしく変わる環境の中で情報の取捨選択を迫られている人にとって、心に恵みをもたらせてくれるのは上質な読書である。座右の書を持つ、それは精神に故郷を持つということだ。
読者の皆さんも、ぜひ、気に入った本を座右においてほしいという意味も込めて本書を書いた。
・・・齊藤孝 著・・光文社新書より。
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