20年9月更新 所長の部屋  

 
 暑い暑いといっていた今年の夏もお盆を過ぎたころから、朝夕はめっきり涼しくなり秋を迎える今日この頃です。皆さんお変わりありませんか。

17日間の北京オリンピックも無事閉幕、今回もさまざまな試合の中で感動をいただきましたね。日本の選手の皆さんもよく頑張ってくれました。惜しくもメダルに届かなかった試合にしてもオリンピックに出られるレベルであったということを知りましょう。

日本人はレベル以上のものを期待し、負けるとなると不甲斐ないとか、情けないとか、恥知らずとか冷酷な言葉を浴びせる傾向が強い民族だそうです。期待を裏切られたという感情でしょうか。自分自身には甘い評価をするくせに・・・。


 さて、今回は
8月中旬から長崎美術館で開催されている『相田みつを展』の中からいくつかを紹介しましょう。

おかげさん・・・相田みつを

秋の篇から・・・


あたまじゃわかっているんだが

 このわたし・・・すきになってはいけないひとを

         すきになるからまよいがおこる

         すきになってはいけないひとを

         すいてくるしむこのわたし
      
 人間は倫理、道徳、理屈通りには動けません。           そして、問題は常にこのわたし。

 コンピューターでいくらダメという答えが出ても、その通りになれ ない人間、つまりこのわたしです。

 これは男と女のことで、いつも迷ってきた            わたしの独白(ひとりごと)です。


生まれたときはまるはだか死ぬときはそれも捨ててゆく

 捨てる・・・「あってもなくてもいいものはないほうが
  いいんだな・・・ この歌なあ、下の句は要らんなあ・・・」


 私が短歌の会というものに初めて出た時、武井哲応老師からいただいたことばです。昭和17年秋のことでした。

このことばに度肝をぬかれた私は、これを機縁として在家の立場ですが老師に師事し、今日までついてきてしまいました。

それ以来、何か迷った時には「あってもなくてもいいもの」を捨てることにしたのです。現実には、そう簡単に捨てられませんが・・・。この一句は私の迷いを整理するための、古くて新しいものさしです。

       
  おだてられればいい気になるし わるくちいわれりゃ腹たつわたし

 自問自答・・・「長い年月、参師門法して、
    おまえは一体何がわかったか・・?」



 欲望と迷いのきりなく深い自分がわかった。いざとなると弱くてだらしのない自分のことがわかった。自己顕示欲と自己嫌悪とうらおもてに交錯する自分の心の中がわかった。

そして―――いくつになっても美女には弱いどちらかといえば多情な自分のことが、よくよくわかった。




気が小さくて臆病で
  ひとのいうこと気になって三日もねむれぬこともある


性格は直らない・・・「私は大変気が小さくて神経質なんですが、座禅を長くやっていれば、そういう性格が直るものでしょうか?」昔よく師匠の武井哲応老師に、私はこんな質問をしました。

すると老師は「直らない」と、ずばり結論をいって、概要次のような話をしてくれました。

「気の小さい者は気の小さいままでいい。気の小さい者がね、座禅をすれば太っ腹になる、そんなことはない。座禅をすれば全部の人が太っ腹になるなんてことになったら、むしろそのほうがおかしい。

ここで重要なことはね、気の小さい者はダメで、太っ腹の者はいい、という考え方だ。
世の中はいろいろな人がいるからいいんでね、みんな一色になったらそれこそ大変だ              

                  『おかげさん・・相田みつを』より


 如何でしたか。ホンのさわりしか紹介できませんでしたが「人間の弱さ、もろさ」を感じませんでしたか。そして、それに打ち勝つ「人間の強かさ、工夫」を感じませんか。

相田みつを先生との出会いはもう20年前になりますが、久しぶりにあの不思議な書体となんと簡潔な言葉を拝見し、またまた生き物を感じました。
 
・・・だから、だから・・・
  「オリンピックで不甲斐ない結果を出した」なんて言えないよなぁ。

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