所長の部屋 20年12月更新


 歳を重ねますと本当に月日の経つのは早いものです。少年期が鈍行列車なら今の私はスペースシャトルに乗って、もう天国の近くにいるようなスピード気分、もう後がないなぁと言うそういう気持ちです。
 
 今年の「私の部屋」は明るい話題を提供しようとお約束しましたが、残念なことに暗い話の山また山。

これらのニュースにたくさんの批判は数多くあれども、今年は振り向きもせず、見向きもせず、いい事だけ、気に入ったことだけを直視しながらいい事だけを想念して過ごすことに努力しました。

さて、今年最も気に入ったこと・・・それはNHKの大河ドラマ『篤姫』でした。今年のトリは篤姫を取り上げてみましょう。



篤姫・・「天障院篤姫」
                     ・・・宮尾登美子


宮尾 登美子 (作者)

 歴史に埋もれていた存在であった篤姫について、独自取材によりいわ ば発掘した「天璋院篤姫」は宮尾歴史絵巻の金字塔とされる作品である。原作を読みましょう。



佐野 元彦(製作)・・談

 
幕末に筋を通して、一本道を歩んだ女性がいた。その人の名は篤姫。江戸城が無血開城され江戸の町が火の海になることを防いだのは彼女の尽力を抜きに語れません。
 今回の篤姫では、日々の営みの中でホームドラマ的な日常生活の側面を捉え、そんな温かい家庭で育った篤姫だからこそ家族(大奥
1200人が篤姫の家族)を守り抜いていきます。

 そして、もうひとつ。今回のドラマの中で
小松帯刀という人物を日本中のみなさんに知っていただきたいという私達の願いがあります。とにかく魅力あふれる人物ですから。


佐藤 峰世(演出)・・談

 これまで幾たびも映像化されてきた「幕末、明治維新」といわれる時代を背景に、ひとりの女性のたくましい生き方を描きます。

家族の絆と激動の時代の女性の視点、維新(これあらたなり)とは?・・心から平和を願う女性を描きます。


田渕 久美子(脚本)・・談

 この国が混乱を極めていた時代に最後まで「誇り」「覚悟」を失わなかった女性篤姫。
 愛する故郷である薩摩が、そして皮肉にも婚礼の支度役だった西郷が刃を向けてきたとき実家よりも婚家を守り通そうとしたその姿勢に、日本人が失ってしまった、そして、今の日本人になによりも必要な「何か」が秘められているのではないか。それを自分の覚悟として脚本しました。



菊池 錦子(書)・・談

 まっすぐひたむきに前へ進む強さの中にたおやかさ、寛容さと、そして全体的に風が通り抜ける感じで、登場人物一人一人がいきいきと、とても魅力的に描かれています。



       心に残る台詞(せりふ)から
         

――菊本
・「女の道は一本道。さだめに背き引き返すは恥にございます。」
                                        


――篤姫
・「私はおのれの意思で参りとうございます。自らの意思で江戸へ赴き、自らの意思で父上様をお助けし、国の力となりたいと存じます。」
                                          

――江戸に向かう船上から、篤姫
・「薩摩を思って泣くのはこれが最後・・・」
                          

――斉彬が篤姫に
・「おのれの信じる道を行け」                 


――島津斉彬
・「力は力を呼ぶ、腕力には腕力、武力には武力で応じようとする。そこに生じるのは憎しみばかりじゃ。憎しみは互いの心に憎しみを生み、それがさらなる争いを生む。」                                 


――お幸
・「この世のものにはすべて役割があるのです。風には風の役割があるのですよ。お一(おかつ)。風が雲を呼び、雲が雨を降らし、田畑を潤し作物が実るのです。それは人とて同じです。人間も同じように武士には武士の、百姓には百姓の役割があるのです。武士と百姓のために仕事をしなければならないのです。」
                                       

                  
――大久保正助の母フク
・「私どもはおのれの生き方に誇りをもっております。」
                               


――お幸
・「一方を聞いて沙汰するな。どんな人の声にもまんべんなく虚心に耳を傾け、その人その人の身になってよくよく考えることです。しかし、それでも結論が出せず、迷うことがあるときは考えるのをやめなされ。」
                                    
     


――勝海舟
・「薩摩は強引なやり方で幕府の改革を迫った。そんなやり方は下の下です。力で人は動かされねぇもんです。心で動かすもんですよ。
                                       




 
毎回20%以上の高視聴率であった篤姫の人気はどこにあったのでしょうか。毎回毎回、登場人物のせりふの中に、

  
*家族のあり方を問う
          *忠孝
(殿には忠義、親には孝養)の難しさを問う
   *友のあり難さやせつなさを問う
          *大奥という閉鎖社会での生き方を問う
   *心のありかたを問う
           *時代の先見性を問う
   *生と死を問う
           *真実(まこと)を問う


 
これ等、今、日本が病んでいる全ての諸問題に向き合って病巣と治療法を投げかけているように思いませんか。

 社会問題、経済問題、世界問題そして環境問題等、未曾有(みぞうゆうとは読まない)の難題を抱えている日本国そして日本人。失われている何かを見出し、どのように対応していけばいいのか、そんなヒントを与えるようなドラマだったのではないでしょうか。

 金融問題から発した経済不況の波は正に黒船来航と同じではありませんか。
 そのような時に一国の指導者が頻繁(はんざつとは読まない)に暴言を発し、政策等々にも迷走し続ける。
 これを解決するには古い自民党の体質を踏襲(ふしゅうとは読まない)していては先には進まないことを知るべきでしょう。


 今回の大河ドラマ篤姫は脚本と演出が相俟って素晴らしい構成・出来栄えでしたね。
 中でも、家定と篤姫のおわたりの瞬間から絡んだ糸をほぐすように夫婦の絆を作っていく様、幾島と滝山が対峙し、滝山がすっとかわす微妙なやりとりの様や勝海舟と小松帯刀の心を問う様なんぞはワクワクゾクゾクするようでした。
 幾島と滝山の美しさがあの篤姫を引き立てていきましたね。

 それにしてもいやぁ〜滝山は美しかったなぁ・・稲森いずみって見事にはまり役でした。

今年も後、一ヶ月。篤姫の最終回を見ながら、総集編を見ながら、この一年を振り返ってみましょう。

“余(私のこと)も今宵は滝山と差しつ、差されつ、一杯飲みながら今年を省みるとしよう!”


皆さん、来年もいいお年でありますように。この一年をありがとう。
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